疫学調査の結果アルツハイマー型認知症の発症に食習慣が深く関係していることが明らかになりました。
自治医科大学大宮医療センターの植木彰教授らの研究チームが、アルツハイマー病患者51名と同年齢の健康な人の食べている食事の中身を分析するという調査を行ったところ、患者の多くが脂肪酸などの摂取バランスが崩れていることが判りました。
男性患者は摂取するエネルギー量が健康な人に比べて約3割程度多く、穀類・肉類・植物油の摂取量が特に目立ちました。
一方、女性患者は1日に必要なエネルギー量をとっていない人が多く、海草や緑黄色野菜の摂取量が非常に低いという結果でした。
また、患者全員に共通した傾向として、青魚に多い不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の摂取割合が低いこともわかりました。
この結果から、植木教授は「1日80gの青魚、最低2回の緑黄色野菜を摂ることが痴呆の予防には大切」と指摘しています。
若い脳を保つための食事のポイントは「減塩」「抗酸化」「コレステロール」です。
高血圧は認知症の危険因子のひとつ。塩分やコレステロールの摂りすぎは血管を老化させ、動脈硬化や脳梗塞を促します。
また、活性酸素によって体の細胞が酸化すると新陳代謝が妨げられ、老化を促してしまいます。
栄養バランスの良い食事をすることは、高血圧・動脈硬化などの生活習慣病だけでなく、認知症予防にも効果的なのです。
▲偏食で増えるリスク
自治医科大学大宮医療医センター神経内科の植木彰教授らのグループは、アルツハイマー病患者の生活習慣の聞き取り調査から患者の食事内容に偏りがあることに気づきました。認知症のない家族に比べ、患者の食事は魚と緑黄色野菜の摂取量が少なかったのだそうです。
「痴呆が進行すると、食事量が極端に増えたり、味覚が変わることは知られています。
しかし、発症前の食事については、これまで詳細には調べられていませんでした」と、同研究グループの大塚美恵子講師は話しています。
この調査は48人の患者と、その家族77人の食生活について調べたもので、両者を比較したところ、1000kcal当たりの換算で家族が平均59.3gの魚を食べていたのに対し、患者は39.0gしか食べていませんでした。
また、緑黄色野菜の摂取量も、家族は69.9gだったが、患者は45.9gと、こちらも患者のほうが食べていないことが分かりました。
全体の食事内容でも、家族はおおむねバランスがとれていたのに対し、患者は偏食傾向が見られました。
さらに調べると、摂取している栄養素のうち、「多価不飽和脂肪酸」と呼ばれる脂肪の一種のバランスが目立って悪いことが明らかになりました。
多価不飽和脂肪酸には肉に多く含まれるリノール酸(n-6系)と魚に多いα-リノレン酸(n-3系)があります。
厚生省がまとめた栄養指針『日本人の栄養所要量』では、リノール酸とα-リノレン酸の比率は、リノール酸が4に対し、α-リノレン酸が1程度を目安としています(n6:n3=4:1)。
研究グループの調査では、患者は肉に多いリノール酸が、魚に多いα-リノレン酸に比べ、平均4.3倍と高く、逆に家族は同3.4倍と低い傾向が出ました。
若いときから肉類が好きで、多いときには週に3回以上焼き肉や豚カツを食べていた患者に、魚を中心にしたメニューに切り替えさせ、α-リノレン酸系のドコサヘキサエン酸製剤も服用させた結果、簡便な脳機能テスト(MMSE)で初診時19点だったのが、最大で25点まで回復したそうです。
治療をしないと通常は2年で5~6点は下がるといわれているテストでこれだけ点数が上昇するのには、やはりα-リノレン酸の力が関係しているようです。
偏食がアルツハイマー病に結びつくのか、本格的な研究はこれからです。
しかし、この比率が高くなるほど細胞膜が弱くなり、多くの病気の引き金となると考えられています。
また、脳で起きる慢性の炎症がアルツハイマー病の引き金になっているとの説もあります。
リノール酸とα-リノレン酸の比は炎症の抑制にも関係しているといわれています。
Copyright(C) 2006 教えて認知症予防 All Rights Reserved.
株式会社小野経営サポート 〒103-0027 東京都中央区日本橋3-2-14 日本橋KNビル4F